横浜港沖堤の黒鯛釣り

最終更新日:2006年7月3日




■クロダイについて
横浜沖堤での伝統的な釣りものの代表と言えば、「黒鯛」です。 クロダイは、日本各地の沿岸部に棲むなじみ深い魚です。外観は 精悍で、頭部がマダイよりも鋭角になっており、全体が黒銀色を しています。マダイは沖釣りの対象魚ですが、クロダイは港湾の 中など、より人間の生活環境に近い場所に棲んでいます。したが って、昔から身近な釣りの対象になってきましたが近年は数が 減少し、むしろ希少価値さえでてきたほどです。そのため、今で は黒鯛釣りはベテラン釣り師の対象、というイメージが強くなっ てしまいました。
■釣期
「クロダイは桜前線とともにやってくる」と言われています。横 浜では、3月末頃からボチボチとクロダイの釣果が聞かれ始めま す。この時期は「春の乗っこみ時期」と呼ばれ、産卵を控えて活 発にエサを食う、と言われています。冬に深場に潜っていたクロ ダイが、この時期になると浅瀬に寄ってきて、エサを食べ始める のです。初期には、港の入口の堤防(第一新堤など)から入って きて4月末には、一番奥の旧赤灯台や旧白灯台でも釣果が出始め ます。この時期から、10月頃までが横浜でのクロダイの釣期で す。
秋には、「落ちのクロダイ」と言って深場に戻る前の「荒喰い」 がある、と言われます。
また「居着き」と言って、通年、堤防に留まるクロダイもいるよ うで、それを狙って一年中クロダイをやる人もいます。居着きは 2kg以上の大型が多いと言いますが、さすがに警戒心も強く、 上がることは非常に稀のようです。
■釣法と道具
クロダイは北は青森から南は沖縄まで全国各地に広く分布してい るために地方によってさまざまな釣法が生まれました。関東では 「ヘチ釣り」という堤防釣りが一般的ですが、関西では活きエサ をコマセ団子で包んで投入する「ダンゴ釣り」などがあります。 投げ仕掛けで釣る「ブッコミ釣り」もあります。各地の磯ではコ マセを撒いて寄せる「浮きフカセ釣り」が一般的です。また、山 形県の庄内地方には、冬の砂浜で寒風吹き荒ぶ中、太い竹竿を出 して釣る「庄内釣り」と言われる釣法があります。これは、体力 的にも精神的にも非常に厳しい釣りで、もともとは武士の精神鍛 練として始まった、と言われています。最近はサーフのクロダイ 釣りとして、各地で行われるようになりました。
横浜沖堤でのクロダイ釣りは、「ヘチ釣り」という釣法が一般的 です。ヘチ釣りというのは、堤防のヘチ、つまり堤防の側面ギリ ギリを狙う釣りのことです。クロダイは堤防に付着したイガイや 堤防からはがれ落ちてきたカニなどの小動物を捕食するので、堤 防の際に寄ってくることが多いからです。そのクロダイにエサを 自然に落としてやって喰わせるのがヘチ釣りです。
1)竿
ヘチ釣りに使う竿のことを「ヘチ竿」といい、極端な先調子で2 メートル程度の短竿が一般的です。最近はカーボン製のものが多 くなってきましたが、昔ながらの竹製の「和竿」もベテランには 好んで使われています。また、この和竿は手作りも可能で、自分 で造った竿を愛用している釣り人もいます。
最近は名古屋や関西の釣法の影響で、比較的遠くまで探れる「落 とし込み竿」を使う人も多くなっています。これは3.6メート ル程度の長さで、ヘチ竿よりもやや胴調子になっています。
ヘチ竿は2:8、1:9など極端な先調子の竿で、穂先が非常に細く、また穂先のガ イドがとても密に装着されているのが特徴です。

(写真:ヘチ竿)
落とし込み竿は、3.6m以上と長さがあるために、リールシートから竿尻まで がヘチ竿よりも長くなっています。ここに肘を当てて長い竿を扱 いやすくするためです。

(写真:落とし込み竿)
2)リール
このヘチ竿や落とし込み竿に装着して使うのが「太鼓リール」と いう独特の片軸リールです。太鼓リールというのは、ちょうどフ ライリールのような形状で、滑車のような片軸のスプールに道糸 を巻いてあるだけの実に単純なものです。最近は軽金属製やプラ スチック製のものもありますが、ほとんどの釣り師は、昔ながら の木ゴマのリールを愛用しています。
このリールにはドラグ機能などはないために、魚がかかってから の糸出しは、自分の親指でコマを押さえて調整する(サミング) 必要があります。これも太鼓リールで釣る際の醍醐味と言えます。

(写真:左はクラッチ付きリール、右は伝統的な木製リール)
3)糸、仕掛け
このタイコリールに2〜3号程度のフロートタイプの道糸を50 メートルほど巻いておきます。道糸は蛍光オレンジなど、比較的 目立つ色彩のものが使われます。ヘチ釣りでは、浮きを使わず、 道糸の動きを見てアタリを判断するからです。最近は糸の一定間 隔に着色をして、糸の沈降や動きを見やすくしているものもあり ます。
その道糸に1号から2号のハリスを1尋ほどつけ、チヌ鉤の1〜 3号を結びます。ヨリモドシを使用するかどうかは、好みにより ますが、エビエサなどは回転して糸ヨレしやすいので、できれば つけた方が無難でしょう。ガン玉はBから3B程度を、そのとき の風や水深等で選択し鉤のチモトから2〜3センチのところに 打ちます。仕掛けは、以上のようにとても簡単なものです。 カニエサやイガイなどを使用する際は、専用の特殊な針もあるよ うです。
■エサ
もともとクロダイは「悪食」と言われるほどの雑食性で昔は糞尿 を流していた場所などにも群れていたと言います。したがって、 釣り場によって、エビ、カニ、イソメ、オキアミなど様々なエサ が用いられます。地方によってはサナギやスイカなど変わったエ サを用いる釣り方もあるようです。
◇ヘチ釣りのエサ
沖堤でのヘチ釣りには、モエビ、ボサエビ、タンクガニ、マメガ ニ、イワイソメ、フクロイソメなどの活きエサが使われます。イ ソメ類は通気性のあるエサ箱に入れておけば大丈夫です。モエビ やカニなどは、「逆さ桶」という独特な木桶に入れておきます。 これは底の方が広がった直径15〜30センチ、深さが10から 30センチ程度の木製の桶で、これに水を入れ、空気ポンプで空 気を補充してエビやカニを活かしておきます。
その他にも、堤防についている「イガイ」という黒い貝もよく使 うエサです。ただ、最近は堤防からのイガイの大量の採取は禁止 されています。

(写真:逆さ桶と空気ポンプ)
■釣り方(ヘチ釣り)
生きエサをつけた仕掛けを、ヘチぎりぎりに投入します。ガン玉 はできるだけ軽いものにして、エサが自然に降下するようにしま す。仕掛けが降下する間、道糸には常に若干の糸フケ(たるみ) をつくっておきます。この釣りでは「浮子(ウキ)」は使いませ ん。竿で感じ取る「コツ」というアタリと、糸フケの変化で仕掛 けの状況を判断します。クロダイがエサに反応した場合は、道糸 が震えたり、フーっと吸い込まれるように入っていったり、竿に 「コツ」といったアタリを感じるなど、いろいろな形で伝わって きます。アイナメの場合は、底にいるので、仕掛けの着底寸前に アタリがありますが、クロダイの場合は、中層を泳いでいること も多いので、アタリはいつあるか予想できません。底まで仕掛け を降ろしてしばらく反応がなければ、一旦仕掛けをあげて、再度 投入します。これを繰り返しながら、堤防の周囲を探って歩くの がヘチ釣りです。
ヘチ釣りでは、この名前が示すように、堤防ギリギリに仕掛けを 落としていくのが一般的でした。しかし、最近では関西や名古屋 での釣法の影響もあり、比較的遠くに仕掛けを投入する「落とし 込み」釣法をミックスする人が多くなってきました。(関西の 堤防は、大型のケーソンが多く、その安定のために大量のゴロタ 石が堤防の周囲に投入されています。したがって、魚の居着く範 囲も広くなり、ヘチだけでなく広い範囲を探る釣法が生まれたと 考えられます。)この方がより広い範囲を探れますから、効率的 ではあります。それで、そのために、最近は3.6メートル以上 の長めの竿を使う人も多くなっています。この場合でも基本的な 仕掛けや釣り方は同じです。
■黒鯛がかかったら!?
あまり回数を釣り上げたことがないので、一般論は言えませんが 自分の少ない経験でお話しします。
クロダイは鉤にかかると、若干左右に走りますが基本的には堤防 に寄るか、底に潜ろうとします。沖に走っていくボラや、上下左 右に走り回るスズキとはかなり様子が違います。したがって、最 初の数回の突っ込みをかわせればあとは魚が疲れるのを待つだけ です。
そうは言っても、そこはクロダイ。30センチを越えるとかなり の力持ちです。無理にあげようとすると、ハリスを切ったりしま す。堤防には磯のような「隠れ根」はありませんから根ズレによ るハリス切れの心配はありませんが、黒鯛の歯は鋭いですから鉤 の掛かり方によってはハリスを切られます。くれぐれも無理をせ ずじっくりと魚が浮いてくるのを待ちましょう。
黒鯛の突っ込みをかわすためには「サミング」という技術が必要 です。ヘチ釣りで使うリールは前述のように非常に簡単なもので スピニングリールのような「ドラグ機構」はありません。そこで 魚の動きを適当に抑制するには、リールの木ゴマを自分の親指を 使ってうまくブレーキをかける必要があります。これが「サミン グ」です。かなり強烈な引きのときには、やや緩めて魚を走らせ ます。だんだん弱ってきたら、リールを固定して、浮かせるよう に竿を立てていきます。姿が見えたら静かに寄せて、玉網で確実 に取り込みましょう。
■釣り場でのご注意その1
このように、横浜沖堤でのクロダイ釣りは「ヘチ釣り」が一般的 で、ほとんどの釣り人がこの仕掛けでクロダイ釣りを楽しんでい ます。したがって、こうした釣り人の近くで、盛大にコマセを撒 いて浮子釣りをしたり、団子釣りをしたりすることは慎んだ方が よいでしょう。(※沖堤でのダンゴ釣りは禁止されています。) 「釣り」は地方文化的な色の濃い遊びです。釣り場にはその土地 特有の「不文律」があるものです。知らなかった場合は仕方があ りませんが、それでもできるだけトラブルの起こらないように予 め周囲の様子を確認してから始めるなど、気を配りましょう。
■釣り場でのご注意その2
クロダイ釣りに使う活きエサは堤防でも捕ることができます。堤 防に付着している「イガイ」もそのひとつです。しかし、最近は イガイの付着が激減しており、横浜沖堤では数年前からこの採取 が禁止になりました。ひと握り程度のものを捕るのは黙認されま すが、以前使用されていたような大型の採取鉤で大量に採取する ことは慎んでください。

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